日本糖尿病・肥満動物学会理事長 寺 内 康 夫
本学会は1987年1月、「日本糖尿病動物研究会」として発足し、2007年2月、「日本糖尿病・肥満動物学会」へ改称いたしました。創立者であり、初代会長の後藤由夫先生、2代目会長の金澤康徳先生を中心とする先輩の先生方の御尽力により発展してきた本会を、3代目理事長の門脇 孝先生が引き継がれ、2015年以降、私が4代目理事長を拝命しております。
我が国の糖尿病モデル動物を用いた研究は、研究会として発足当初の頃からの自然発症糖尿病モデル動物を用いた研究に加え、遺伝子改変糖尿病モデル動物を用いた研究も大きく花開いています。その過程で、糖尿病動物研究のリーダーとして国際的にも活躍してこられた先輩の先生方に加え、中堅・若手の優秀で熱意のある糖尿病動物研究者も数多く育ってきました。一方、糖尿病治療薬は毎年のように新規薬剤が登場し、糖尿病治療環境は大きく改善しました。このような臨床での進歩は、糖尿病やその合併症の病態・治療に関する基礎研究の礎があって成立するものであり、動物モデルという個体を用いた研究が糖尿病学の発展、社会への貢献に果たした役割は大きかったと言えます。
本学会では2013年には将来検討ワーキンググループを立ち上げ、日本の糖尿病・肥満動物研究をさらなる活性化のために必要なことを議論し、若手、女性、地方在住の研究者のための研究環境整備にも取り組んできました。2016年4月に発生した熊本地震では熊本で震度7を2回も観測しましたが、熊本大学動物実験施設における飼育動物の被害は全飼育動物の約1%にとどまり、本震後一週間以内に通常の飼育業務へと復帰できました。時期的に空調機の一時停止が起こっても飼育室の温度への影響が小さかったこと、ライフラインの復旧が早かったこと、空調機やオートクレーブ等の機械類の損傷が少なかったことなどの幸運な部分もありますが、東日本大震災での教訓を受けて、ラックの転倒防止策や緊急時マニュアルの策定などの策を講じてきたことも大きかったと聞き及んでいます。また、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震では厚真町で震度7を観測しましたが、北海道大学動物実験施設における飼育動物や施設の直接的な被害はほとんどなかったようです。しかし、停電が長期化した際には飼育環境が整わず、飼育動物に甚大な被害が出る可能性があったそうで、停電対策を十分に講じておく必要があると再認識させられました。日本ではいつどこで大きな地震が起こるかわかりませんので、今までに得られた教訓を生かして、実験動物への影響が最小限で済むよう努めて頂きたいと衷心より願っております。また、2020年からのコロナ禍では学術集会を開催できずにいましたが、2023年2月には「糖尿病学の進歩」と同日程で、集合型の学会を開催できました。WEB形式の学術集会のよさもありますが、参加者が一堂に集い、同じ空気を吸いながら、議論し、喜び、祝福する、そんな日常が戻ってきました。また、本学会は2023年より日本糖尿病学会の分科会となり、学会運営を支援いただけることとなりました。
本学会理事長を拝命して、5期目になりますが、これまでの研究の流れを継承し、学術団体としての学会活動をさらに推進するとともに、産業界や社会に向けた活動も視野に入れ、糖尿病学の更なる発展に貢献します。新しい試みも意識的に取り入れながら、本学会を益々発展させるために努力していきますので、本学会を支える各分野の研究者、臨床医、実験動物あるいは製薬関連企業の研究者など、学会員の皆様のご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。
2023年3月