日本糖尿病・肥満動物学会理事長 窪 田 直 人
このたび2025年(令和7年)3月より日本糖尿病・肥満動物学会理事長を拝命いたしました窪田直人と申します。理事長就任にあたり一言ご挨拶申し上げます。
本学会は1987年1月、創立者であり初代会長の後藤由夫先生のもと「日本糖尿病動物研究会」として発足し、2代目会長の金澤康徳先生を中心に大きく発展し、2007年2月、3代目理事長の門脇孝先生のもとで「日本糖尿病・肥満動物学会」へと改組されました。2015年2月より4代目理事長を務められた寺内康夫先生のもと、2023年には日本糖尿病学会の分科会となり、新たな展開を迎えています。
我が国における糖尿病・肥満症研究は、研究会発足当初より進められてきました自然発症糖尿病・肥満モデル動物を用いた先駆的な研究を基盤として発展してまいりました。近年では、遺伝子改変技術の飛躍的進展を背景に、遺伝子改変モデル動物を駆使した研究が著しい進化を遂げており、病態の分子基盤に迫る精緻な解析が可能となっております。この過程においては、国際的に高い評価を受けてこられました諸先輩方の御活躍に加え、次世代を担う優秀かつ志高い中堅・若手研究者が数多く育成され、本邦の研究水準の向上に大きく寄与しております。こうした人材こそが、我が国の糖尿病・肥満症研究の層の厚さと国際競争力の源泉であるといえます。また、臨床の現場においても、糖尿病および肥満症治療を取り巻く状況は近年劇的な変化を遂げております。特にGLP-1受容体関連作動薬の登場は、肥満症のみならず糖尿病も含め、その克服に向けた高い社会的気運につながっています。このような臨床的進展の礎には、糖尿病や肥満症およびその合併症に関する病態解明と治療法開発を目指した基礎研究の不断の努力と蓄積が存在いたします。とりわけ、動物モデルを用いた研究が果たしてきた意義は極めて大きく、今後もその重要性はより一層高まっていくことが予想されます。
私は3代目理事長の門脇孝先生のもとで約9年間、事務局長として本学会の実務を担当させていただきました。肥満やメタボリックシンドロームの研究が活発になっていたことを受けて、改組にあたり学会名に「肥満」が入ったことや、学会の根幹である研究活動の活性化、特に若手研究者の育成を目的とした「学会賞」の制定などはとても印象に残っております。また2011年3月11日に発生した東日本大震災をふまえ、実験動物施設の飼育環境アンケート調査を行い、 最も被害が大きかった岩手、宮城、福島やその近県地域の実験動物施設(大学や製薬企業など)を対象に被害状況を把握し課題や今後の対策をまとめたことは、大変貴重な経験となりました。2016年の熊本地震では震度7の揺れが2度観測されましたが、熊本大学動物実験施設では飼育動物の被害はわずかにとどまり、本震から一週間以内に通常業務へ復旧しました。これは、ライフラインや機器の被害が軽微だったこともありますが、何より東日本大震災の教訓を踏まえた一連の防災対策が功を奏したといえます。また、本学会は2023年より日本糖尿病学会の分科会となり、これにより認知度の向上や他研究者との交流・共同研究の拡大による「学術的価値の創出」や、財務負担軽減による「組織基盤の安定」、「コンプライアンスの強化」といった多面的なメリットがもたらされ、研究領域の中長期的な発展を大きく後押しすることが期待されます。引き続き連携を強化しつつ、小回りの利く分科会の強みを生かしながら発信力の強化をはかってまいりたいと思います。
これまでの活動の流れを継承し、学術団体として学会活動をさらに推進するとともに、産業界や社会に向けた活動も視野に入れ、糖尿病学/肥満症学の更なる発展に貢献していきたいと考えております。動物研究をめぐる環境は厳しさをましておりますが、新しい試みも意識的に取り入れつつ、風通しがよく気軽にディスカッションできる雰囲気を醸成しながら、本学会を発展させるべく全力であたりたいと思います。これからも学会員をはじめ関係の皆様のより一層の御支援と御指導御鞭撻を何卒よろしくお願い申し上げます。
2025年3月