Vol.8 No.2 November 2004

号頭言 「心懸けたい“我れは我が素を行う”-研究の自分史を動物モデルから振り返って-」

中部労災病院
堀田 饒

 医師になって40年、研究生活39年の来し方を振り返れば、今日迄糖尿病一筋であった。約40年前には、余り注目されることのなかった糖尿病が今、世界的に最も注目されることを誰が予測しえたであろうか。ともあれ、糖尿病と歩んで来た40年を振り返ることは、糖尿病動物モデルと相対峠して来た自分史を辿ることにもなる。
  名古屋大学医学部を1969年に卒業後、1年間の臨床実習を終え、大学院生として名古屋大学医学部第3内科に入局以来、カナダ・トロント大学医学部生理学教室、Banting and Best研究所へ1968年から2年間の留学生活を送った以外、退官する2000年迄、名古屋市内に在る名古屋大学医学部の鶴舞キャンパスで、教育・研究・診療に明け暮れした約35年間だった。この35年間に取り組んだ研究は終始一貫、糖・脂質代謝調節メカニズムからみた糖尿病病態で、その変遷を用いた動物モデルから眺めてみたい。
 入局当時、名古屋大学医学部第3内科は山田弘三教授の下、ビタミンを主たる研究分野とされていた。私が所属した研究室は、後に第3内科教授になられた坂本信夫先生の糖尿病グループで、研究テーマは“ビタミンB6と糖尿病”で、ビタミンB6欠乏ラットの作製と飼育に明け暮れした毎日。ビタミンB6欠乏餌は自からの手で作り、ビタミンB6欠乏ラットを用いた in vivo、in vitroの研究は、既報の追試で、同じ実験を2年かけて3回行ったが既報の成績を再現しえなかった。In vitroの実験は、ラットの横隔膜筋と副睾丸脂肪組織を用いて、糖代謝へのビタミンB6の影響だった。山田先生からの指示は、第1回の実験結果を踏まえて、第2回の実験では各群の動物数を倍増、そして第3回の実験には既報論文に記載されている動物購入先を同じ業者にすることだった。しかし、結果は全く同じで、既報の再現は能わなかった。これら一連の実験から、研究の在り方と厳しさ、そして論文を読む目を会得した。
 追試の明け暮れで研究生活に疲れを覚えて来た頃、トロント大学への留学が決まりSirek教授夫妻が主宰される研究室へ2年間居候し、“成長ホルモンとlipolysis”というテーマで、in vivoおよびin vitroの実験に着手した。In vivoに用いた実験動物はビーグル犬で、正常犬、下垂体除去犬、膵臓除去犬、Houssay犬(膵・下垂体除去)に成長ホルモン静注によってlipolysisを惹起させるのだが膵臓除去犬には観察されなかった。次のステップとして、collagenase処理でラット副睾丸脂肪組織から得られた単離脂肪細胞を用い、この現象のメカニズムの解明だった。この単離脂肪細胞の実験手法は、1994年に“G蛋白質の情報中枢機構”でノーベル生理学・医学賞を受賞したMartin Rodbellにより開発されたものだが、Banting and Best研究所を訪れた彼から実験手技と得られた成果に就いて、指導を受けたことが懐かしく憶い出される。メカニズムの解明には成功したが、Rodbellが亡くなって6年になる。
 帰国後は、ストレプトゾトシンあるいはアロキサン糖尿病ラットを用い、単離脂肪細胞、摘出肝灌流あるいは単離肝細胞を駆使し、糖・ケトン体代謝調節メカニズムの研究に専念する中で、以後のライフワークとなった“ポリオール経路と糖尿病性合併症”の研究へと発展していった。対象とした糖尿病性合併症は、神経障害、網膜症、腎症そして大血管症で、目的に応じて種々の動物モデルを用いて来たが主なものを挙げれば、以下となる。ストレプトゾトシン糖尿病ラット、フルクトース餌飼育ストレプトゾトシン糖尿病ラット、yellow KKマウス、OLETFラット、ガラクトース餌飼育ビーグル犬に加えて、NONマウスがある。1型糖尿病モデル動物として世界的に汎用されているNODマウスの対象の一種として開発されたNONマウスの研究会をたちあげ、第1回が1988年5月28日、第2回が1989年4月22日、第3回は1990年5月25日と計3回の研究会を東京で開催した。その成果は、①2型糖尿病モデルとしての意義、②糖尿病性腎症の病態、とに分け、“Current Concepts of a New Animal Model :The NON Mouse”(ed. by N Sakamoto, N Hotta and K Uchida), Elsevier, Amsterdam, 1992.として纏めあげたのは心に残るものである。
  “我れは我が素を行う”とは、中国古典の一つ「中庸」に出典が求められる。「中庸」では、“君子は其の位に素して行い、其の外を顧わず、-中略-、患難に素しては患難に行う。君子入りて自得せざるなし。”意味するところは、君子は自己のおかれた地位や境遇の中で最善を尽し、そのほかのことは望まない。-中略-、患難に際しては、為すべき道を行う。君子ほどの様な地位、境遇にあってもその道を失うことはない。と述べている。我々凡庸な者を君子に例えるのははばかれるが、研究者は皆、手法にこだわることなく、研究目的に適った種々の手法、動物モデルを選び、環境に、人に左右されることなく、自分の意思、思いを貫き、研究の実を結びたいものである。
  自分の歩んで来た道を、糖尿病の動物モデルから辿ってみた。今後とも、臨床病態に適った動物モデルの開発がすすめられ、糖尿病をはじめとした種々の疾病の成因の解明と対応の確立が、遠くないことを願うものである。

第19回日本糖尿病動物研究会年次学術集会の開催にあたって

公立高島総合病院
谷川 敬一郎

 第19回日本糖尿病動物研究会年次学術集会は平成17年2月4日(金)・5日(土)、京都において開催することになり、そのお世話を私がさせて頂くことになりました。会場は京都大学創立100周年を記念して医学部構内に設立された芝蘭会館です。責任の重大さと身に余る光栄で緊張した毎日です。多数の先生方のご参加を期待しております。
 この研究会にはいつごろから顔を出していたのか記憶は判然としませんが、当時の研究会会長の後藤由夫先生の推薦により評議員にしていただきまして、ここ10年ぐらいは毎年演題を出してきたように思います。私にとって特に思い出深い仕事は「NODマウスにおけるANPの合成と分泌」、「90%膵切除後のin vivoでの膵β細胞の再生とperfusionによるインスリン分泌の検討」、「子宮内胎仔発育と成人での糖尿病の発症」などなどです。動物を使った研究の面白さは自分が考えた仮説を証明できることです。平成6年に文部省在外研究員として、ブリュッセルのMalaisse教授のlaboで半年間過ごせた事も本当に命の洗濯になりました。今は一般病院の管理職として働いており、私の研究史は本当にささやかではありますが、今から考えても面白い大学での24年間であったとうれしくなります。現在では糖尿病動物を使った仕事はやや古典的となり、transgenicやknockoutしたマウスでの研究が一流雑誌を飾っています。そうやって個々の遺伝子や蛋白の役割が明らかにされた後には、糖尿病の全体像を正面から考えてみる必要もでてきて、またGKラットなどが重宝される時代に返るような気がしますが、間違いでしょうか。
 今回特別講演していただく清野進先生とは20数年来の友人であると共に尊敬する国際的な学者でもあります。研究当初われわれはソマトスタチンの分泌を、彼はperfusionで、私はisletで見ていましたが、その後彼は皆様ご存知のようにBell博士の片腕として多くの業績を発表し、帰国後はK-ATPchannelの仕事で世界のトップランナーとして走り続けています。素晴らしいことです。三輪一智先生はglucokinaseの研究ではMachinskyらとcompeteされており、私もfetal isletのインスリン分泌とglucokinase活性との関連について共同研究させて頂きました。永松先生もアメリカでの生活が長く、最近教授になられ今一番乗ってる研究者でADAでも招待講演をされており、素晴らしい講演を期待しております。
 私は12月10・11日には第20回の日本糖尿病・妊娠学会も京都でお世話する予定で、さらに平成17年1月には本院も病院機能評価を受審する予定で、この会が終わるまでは嵐の3ヶ月と考えております。皆様のお力で本研究会が成功することを伏してお願いする次第であります。

賛助会員の研究(6)日本クレア株式会社の糖尿病モデル動物への取組み

日本クレア株式会社開発室
末武 剛

 弊社は1965年、日本で初めてSPFマウス・ラットの安定供給体制を確立し、以降40年間実験動物のパイオニアとしてバイオサイエンス分野の発展に取り組んでおります。
 近年、生活習慣病に関わる実験動物への関心が高まっておりますが、弊社では20年前より糖尿病モデル動物の供給を行っております。1984年、塩野義製薬株式会社、財団法人実験動物中央研究所との契約により1型糖尿病モデルであるNODマウス(ICR-JCLマウス由来)の供給を開始し、引き続き各種2型糖尿病モデルの導入・供給を進め、1990年には武田薬品工業株式会社より導入したKK/TaJclマウスとKK-Ay/TaJclマウス、1994年からは関西医科大学より導入したBKS.Cg-m +/+ Leprdb/Jclマウス、1998年からは東北大学より導入したGK/Jclラット(Jcl:Wistarラット由来)の供給を行い、現在はマウス・ラット合わせて5種類の糖尿病モデル動物を広く供給しております。
 また弊社では、糖尿病研究に有用な飼料や器材も提供しております。「Quick Fat」飼料は主に天然原材料を使用し高脂肪(粗脂肪約15.3%)・高カロリー(約425kcal/100g)としたものです。また、「High Fat Diet32(HFD32)」飼料は、従来固形化が困難であった油脂添加料20%を越える高脂肪飼料を、精製原材料を使用して取り扱いの容易なペレット状にすることに成功し、粗脂肪含量約32%、総カロリーに占める脂肪由来カロリーの比率(Fat kcal%)約60%を実現したものです。これらの飼料は糖尿病モデルの発症を促進し、糖尿病研究に有用であると考えます。
 床敷「再生紙床敷PC」は、一般的な木製床敷に比べてアンモニア(臭気)抑止力と吸水性が優れております。糖尿病モデルのマウス・ラットは一般的に多飲・多尿であるため、通常の動物に比べ床敷が汚れやすく強い臭気を発する傾向があります。このようなことから、この床敷きは糖尿病モデルの飼育に適しているのではないかと推奨しております。さらに、この床敷きは原材料に古紙(新聞)を用いたリサイクル製品であるため資源保護にも役立ちます。
 一方、実験動物における大きな流れとして、遺伝子改変動物の利用が拡大しておりますが、糖尿病モデル動物におきましてもご要望に応じ遺伝子改変動物関連の受託生産、生殖工学技術を用いてのTg・KO動物の作製や、受精卵採取・凍結処理などの各種受託業務を行っております。
 このように弊社は、動物モデル・飼料・器材・受託業務を組み合わせた各種動物実験のトータルサプライヤーとして皆様の研究をサポートしております。2001年にはISO9002認証を取得し(2003年、ISO9001認証移行取得)、「ヒトの病気の研究及び医薬品開発に適切な、世界最高品質の実験動物を提供する」ことを品質目標に掲げております。これからもより精度の高い実験動物・関連商品の開発・提供を通じて人々の健康に貢献したいと考えております。

日本クレア株式会社ホームページ http://www.clea-japan.com/