Vol.9 No.1 May 2005

号頭言 「糖尿病治療薬とモデル動物」

富山短期大学専攻科 食物栄養科
木村 郁子

 2003年8月パリで開催されたヨーロッパ糖尿病学会で、Squibb研究所のTaylor S 博士がantidiabetic drug discovery に向けた10対象項目の1位に脂肪組織から分泌されるadipocytokineの一種であるadiponectinを挙げた。2005年3月の日本薬学会(東京)、ランチョンセミナーでの大阪大学・院・生命機能の下村伊一郎教授の講演、同じくシンポジウムでの東京大学・院・医の門脇 孝教授の講演内容もadiponectin一色であった。それぞれ、HMG(β-hydroxy-β-methylglutaryl)-CoA還元酵素阻害剤pravastatin、PPAR(peroxisome proliferators-activated receptor)-γ、αアゴニストを駆使しての報告で、adiponectinやadiponectin receptorの発現を増加させ、insulin感受性を上げるというものであった。一昔前までは同じく脂肪組織から分泌され、視床下部の腹内側核の受容体部位に作用して食欲を抑制するleptinが主流で、leptin欠損ob/ob肥満マウス、leptin 受容体異常db/db肥満マウスがモデルマウスとして、一世を風靡した。しかし、内臓脂肪蓄積によって発症し、insulin抵抗性を示す低adiponectin血症が、糖尿病、動脈硬化、高血圧、高脂血症、脂肪肝・肝線維症・肝硬変、がんに直結することが明らかになり、ヒトではむしろ、leptinより重要視されるようになった。そのためか、polygenicなKK-Ay肥満マウスはadiponectinが減少している糖尿病モデルマウスとして依然、重宝されている。
 化学物質streptozotocin(STZ)で誘起された糖尿病マウスは痩せ型糖尿病モデルである。STZの頻回投与の場合と、多量・単回投与の場合で、糖尿病発症のメカニズムが異なり、前者はtype1、後者はtype2とされてきたが、現在ではtype1とtype2のいずれの糖尿病モデルに相当するかは少々、曖昧になっている。STZ糖尿病マウスはinsulin分泌能が確かに激減しているが、insulinを投与しなくても生存し続けるので、その意味ではtype1とは言い難い。しかし、論文ではtype1モデルであると記載されていることが多く、insulinを投与しなければ生存できないとばかり、insulinを投与しつつ合併症の実験をしている報文もある。また、STZは不安定なため、褐色ビンに入れて、冷凍庫に保存し、水溶液は用時調製する。一時、STZ溶液中にクエン酸を同時に共存させねばならないという論文があったが、それは不要である。STZ糖尿病モデルマウス、同ラットは手軽に安価に作成できるので、薬効スクリーニングに多用されている
 糖尿病治療薬としての、insulin、sulfonylurea(SU)剤、insulin抵抗性改善薬PPAR-γアゴニストのpioglitazoneはいずれも肥満になるという副作用が問題になっている。そのため、肥満を伴わない糖尿病治療薬が製薬会社の一つの目標になっている。また、SU剤には低血糖を起こす副作用がある。健康食品やハーブ、漢方薬の中には、insulin分泌を促進するもの(紅参、桑葉)、insulin分泌を促進しないか、促進しても弱い作用を示すが、食後高血糖を下げ、あるいは糖尿病を改善するもの(知母、緑茶、ギムネマ)、また、甘味感覚の喪失を伴うもの(ギムネマ)など、糖尿病予防や糖尿病改善効果が実証されている。しかし、糖尿病の患者によっては、insulin分泌促進薬は、疲弊している膵島にむちを打つようなことにもなるので、慎重な摂取をアドバイスする必要がある。また、α-グルコシダ-ゼ阻害薬は消化管で、食物中の多糖類の分解を阻害するので、食後高血糖の改善に有効であるが、放屁や腹部膨満などの副作用のために、患者の服薬コンプライアンスが悪い場合がある。薬の薬効評価は通常、in vitro レベルの実験結果から出発し、病態動物モデルを用いたin vivoの実験結果、さらに臨床試験Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ相、市販後調査のⅣ相と、多段階で、副作用を含めた周到な追跡がなされている。それでもなお、実際の臨床の場では患者のQOLは必ずしも良好でない薬がある。糖尿病治療の第一選択肢はまず運動療法と食事療法であると考えられているのも当然であろう。また、患者が多種の健康食品へのニーズを高めている理由になっている。
 このように糖尿病動物モデルは糖尿病治療薬開発の突破口として、必要不可欠である。genomicsの発展により、病態モデル動物としてknock out、knock in、transgenic、など多種の遺伝子改変動物の開発が盛んになり、糖尿病動物研究会とは別に関連学会が設立された。しかし、遺伝子改変もそのうち、単なる技術の一つになる時代が来ると思われる。その意味で、糖尿病動物研究会は例えば、日本糖尿病学会と密接に関連し、遺伝子改変動物も含めた分科会として活動を維持していくならば、学会参加者も増え、活発化できるのではなかろうか。長年、糖尿病モデル動物を駆使してきた臨床薬理学者として、また、糖尿病動物研究会の評議員として、糖尿病動物研究会の存続が必須であることを強調しておきたい。

第19回日本糖尿病動物研究会年次学術集会を終えて

公立高島総合病院内科
谷川 敬一郎

 本年2月4日、5日の学術集会では29題の一般演題、2題の特別講演、1題のイブニングセミナーが発表された。プログラム作成上、1)遺伝子、インスリン分泌 2)糖尿病モデル動物 3)1型糖尿病 4)合併症 5)2型糖尿病の成因 6)治療に分けさしていただいた。講演時間を10分、討論5分としたため、それぞれの発表はレベルの高い、内容も深い演題が多く参加者の興味をひき熱心な討論が続いた。ノックアウトマウスを使った研究から、予期せぬ結果がもたらされるが、京都大学の山田らは消化管ホルモンであるGIPやGLP-1の受容体欠損マウスでは骨の異常をきたすことを明らかにした。脂肪細胞から腫々のホルモンやサイトカインが分泌されることが明らかとなり、脂肪は人体最大の内分泌臓器であることが示されてからは、大抵のことには驚かなくなったが、消化管ホルモンが骨形成にも関与しているというのには驚かされた。今後のさらなる研究の発展を期待したい。
 糖尿病は膵β細胞の病気であると私は強く認識しているので、特別講演2題はインスリン分泌に関するレクチャーをお願いした。神戸大学の清野進教授は「糖尿病モデル動物による膵β細胞機能解析」で、インスリン分泌の生理的な調節機序を明らかにするための分子レベルの研究の過程を格調高く講演していただいた。 K‐ATP channelに関する研究は普遍性を持って、膵β細胞のみならず脳の生理的な働きにも関与していることが示された。リサーチのおもしろさは、一つの発見が多面的な研究に発展することである。私が大学院生の時お世話になった神戸大学の西塚先生のC-kinaseのお仕事もphorbor esterによる癌化の作用とリンクしていることが明らかになって、爆発的に増加したのではないかと推察している。従ってK‐ATP channelがどの程度脳の生理的な機能とリンクしているか研究が発展するものと思われた。杏林大学の永松信哉教授による「画像解析法による2相性インスリン分泌の分子機構」は最新のテクノロジーを使って、インスリン分泌動態を可視化することに成功した研究で非常におもしろく、参加者は皆興奮して懇親会に臨んだ。翌日の名城大学の三輪一智教授は「抗酸化作用および抗グリケーション作用を持つ糖尿病合併症治療薬の開発」について講演された。ご存知のように三輪教授はグルコキナーゼに関する業績は国際的ですが、近年は創薬に関するお仕事も多くピリドキサールの作用については私も一部共同研究しましたが、最近のGKラットの不均一性に気づかずいい結果は出せませんでした。私が鈴鹿医療科学大学で6年間も居れたのは、三輪教授と門下生の先生方と共同研究するチャンスがあったからで、心から感謝しておりますし、今後創薬の可能性ある時には、私もお手伝いしたいと考えております。
 糖尿病の成因に関するevidenceは未だ乏しく、また糖尿病の治療法も色々増えてきたとはいえ、完治の道は遠くこれからも色んな糖尿病モデル動物が必要だと思われます。もちろんインスリン分泌、インスリン作用の分子レベルでの解明は、日進月歩に進んでいますが、トータルに見て、あるいは患者の視点から見てそれほど大きな進歩は無いように思えます。いわゆる古典的な糖尿病モデル動物の研究が少なくなったとはいえ、個々の遺伝子の役割や、遺伝子産物の働きの多くが明らかにされた際には、もう一度wholeで糖尿病の成因を明らかにするため、多くの先人がご苦労をされて作ってこられた、モデル動物が光を浴びるだろうと、私は信じております。

糖尿病モデル動物の紹介(8)WBN/KOB fattyラット

㈱サイエンスサービス
仲間 一雅
日本医科大学実験動物管理室
秋元 敏雄

はじめに
 WBN/Kob 雄ラットは肥満を伴わない糖尿病を発症する。この糖尿病は、膵炎に起因し生後1~2ヶ月齢頃より発現し始める膵炎が3~4ヶ月齢では全個体に発現し、漸次増悪化してラ氏島崩壊を伴なう広汎な膵組織変性の結果として、生後9ヶ月齢前後で雄ラットに高率に発症する。糖尿病ラットは、インシュリン投与などの治療なしに長期生存が可能であり、白内障・網膜症・腎症および神経障害など糖尿病合併症の研究において2型糖尿病のモデルとして利用されている。他方、雌ラットでは、局所的な膵組織変性を見る個体もあるが、膵病変の進展は見られず糖尿病の発症もない1)。

作出の経緯
 糖尿病が生後9ヶ月を経て発症することは糖尿病合併症の研究においては時間的・経済的不利益となるため、また糖尿病罹病期間の長期化を図るためにこのラットの糖尿病発症日齢の早期化を検討した。 このラットの糖尿病発症時期は飼料成分によって変動し、低蛋白質あるいは低繊維質飼料を給餌することにより糖尿病発症が早められ2)、また小腸での糖質吸収を遅らせるα-glucosidase inhibitor投与によって糖尿病発症をある程度遅延させることが可能である3)。すなわち、飼料成分および糖質吸収量を調整することによってこのラットの糖尿病発症時期を制御し得ることから、このラットの糖尿病発症日齢を過食によって早期化することを目的として、Zucker fatty ラット由来の突然変異遺伝子であるLeprfaを交配によりWBN/Kobラットに導入し、肥満性糖尿病モデルとしてのWBN/Kob-Leprfaコンジェニック系統の作出を行った。
 WBN/Kob-Leprfaコンジェニック系統の作出は1998年より始め、WBN/Kob雄ラットとZucker fatty ラットの雌ヘテロ(Leprfa/+)個体を交配して得られたF1産仔を作出した。このうち選抜した雄ヘテロ(Leprfa/+)個体をWBN/Kob雌ラットと交配し、得られた雄ヘテロ個体をWBN/Kob雌ラットと戻し交配することによって現在N12世代に至っており、コンジェニック系として確立した。なお、Zucker fatty ラットの分与および種雄選抜のための遺伝子型診断は、故米田嘉重郎博士にご尽力頂いた。

病態
 病態は、作出途中のN3、N6、N10世代において、ヘテロ同士交配で得られたホモ肥満個体(WBN/Kob fattyラット)についての観察結果である。WBN/Kob fattyラットは、雌雄共に生後5週齢より肥満を呈し7週齢で膵炎を発症した。病理組織検索では、膵臓における間質の浮腫、出血および炎症性細胞浸潤が全ての雄ラットと雌ラットの一部に観察され、9週齢では雌ラットにおいても全ての個体で膵病変が見られた。その後、WBN/Kob雄ラット同様のラ氏島破壊を伴った著しい膵炎所見を観察し、次いで膵実質の繊維化、間質の脂肪浸潤・ヘモジデリン沈着を主体とする病変に移行したが、その中にラ氏島は殆ど観察されないか僅かに小型のラ氏島を見るのみであった。雌雄ラット共に3ヶ月齢で全個体の血糖値が上昇し、雄ラットは全ての個体で尿糖陽性となり糖尿病を発症した。雌ラットは、3ヶ月齢では一部の個体で尿糖陽性を示したが、4ヶ月齢で全個体が尿糖陽性となり糖尿病を発症した。また、雄ラットにおいては腎病変が早期から出現し、3ヶ月齢で腎尿細管上皮のArmanni-Ebstein変性が認められた。長期飼育を行い、12および18ヶ月齢で腎臓の病理組織学的検索を行った結果、尿細管の病変として尿円柱、尿細管上皮の脱落およびArmanni-Ebstein変性が認められ、蛋白尿の排出があった。また、腎糸球体病変としては基底膜の肥厚、癒着、半月体形成、メザンギウム基質の増加および瀰漫性病変が認められ、硝子化変性あるいは荒廃化した糸球体も散見されたが、25ヶ月齢まで飼育した個体においても結節性病変は観察されなかった。また、雌雄ラット共に12および18ヶ月齢で白内障が観察された。

おわりに
 WBN/Kobラットに肥満遺伝子を導入することにより確立したWBN/Kob fattyラットは、従来、著しい膵炎に至らず糖尿病を発症しない雌ラットでも雄ラット同様の病態を発現するだけでなく、糖尿病発症時期を9ヶ月齢から3ヶ月齢へと早期化することができた。
 このラットの特性検索は継続中であり、さらにN12世代およびその近交系の特性を検索することによって、糖尿病性合併症の病態がさらに明確にされると考えている。
参考文献
1. 仲間一雅、秋元敏雄 他、糖尿病動物 3 : 154, 1989
2. 西村正彦、芹沢 治 他、糖尿病動物 5 : 222, 1991
3. 仲間一雅、秋元敏雄 他、Diabetes Frontier 7(3) : 302, 1996

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