Vol.5 No.1 October 2001

号頭言 モデル動物から学ぶ糖尿病

京都大学医学研究科病態代謝栄養学
清野 裕

 我が国の糖尿病モデル動物の研究水準が国際的にもトップレベルに位置することは、昨年我が国において開催された第8回国際糖尿病動物ワークショップでの発表内容をみても歴然としている。私自身、長年にわたりGKラットをいただいて膵β細胞の研究に携わってきた。糖尿病における膵β細胞のイオンチャネルやグルコース代謝の異常、またSU剤無効のメカニズム、酸化ストレスの影響など、ヒトにおいて探求したい多くのことがらについて知ることができた。モデル動物と日本人糖尿病の病態からして、おそらくGKラットから得られた知見のかなりの事象がヒト糖尿病においても当てはまると推察される。末梢組織はまだしも、糖尿病患者の膵ラ氏島を摘出してこれを研究に用いることなどは科学の進歩した今日においても不可能なことである。ヒト糖尿病(とくに2型糖尿病)は極めて多様性であり、その成因や病態もかなり異なっていると考えられる。現在モデルとして開発された多くの糖尿病動物の知見を集積することにより、複雑性疾患である糖尿病の病態がより明らかになることが期待される。また環境因子と遺伝因子の相互作用を短期間に明らかにすることができるのもモデル動物の強みで、食事組成の変更や運動の影響などについての成績も次々と積み重ねられつつある。一方遺伝因子の解明についてはモデル動物を用いてもなかなか明らかにならない。一部の動物については単一遺伝子異常によって糖尿病が生ずる(db/db、ob/obマウス、Komedaラット、Wistar fattyラット)ことが明らかにされている。ところが、GKラットを始めと多因子遺伝によって発症すると考えられているモデル動物については、そのメジャー遺伝子について明らかにされていない。この点についてはヒト2型糖尿病と全く同じレベルにあり、多因子遺伝による疾患の原因遺伝子解明の困難さを改めて実証している。
 近年の分子生物学の進歩は遺伝子改変動物による糖尿病モデル動物の開発を可能にした。糖代謝と密接に関連する因子、インスリン抵抗性にかかわるもの(IRS-1、IRS-2、インスリン受容体やインスリン分泌にかかわるもの(グルコキナーゼ、KATPチャネル)或いは両者にかかわるもの(グルコーストランスポーター2、GIP受容体、GLP-1受容体)のノックアウトマウスが開発され、これら因子の糖尿病発症や病態における位置づけがなされつつある。それぞれ重みに多少の違いはあるが、単一遺伝子のノックアウトによる糖尿病はこれまでのところ予想よりは軽症である。このような一つの欠損、それが重篤な状態を引き起こすと考えられるものであっても、生体の防禦機構として、代償機構が働いてこれを喰い止める方向に向かうためと考られる。これは一般にみられる糖尿病ではやはり多遺伝因子が重要であることを示している。このようなことから遺伝子欠損をもつ動物を互いに交配してその表現型を注意深く観察し、ヒト糖尿病との類似性を探ろうとする研究も進んでいる。このためには単なる遺伝子欠損の組み合わせだけでなく、このようにして作製された動物と環境因子と相互作用の観察も極めて重要である。文章で書くと極めて簡単であるが、これに費やす労力や費用は莫大なものである。ヒトゲノムから行われる遺伝子検索と、遺伝子改変動物の組み合わせから得られる成績のどちらが早く多因子遺伝の解明にせまるのであろうか。どちらも早く知りたいところである。糖尿病は合併症が極めて重要であるが、ヒトと類似した網膜症や腎症をもつモデル動物の開発は極めて困難であった。私のグループはそれに近い動物モデルの開発にも力を入れており、遺伝子導入により一部期待する成績も得られつつある。このように糖尿病動物の開発は糖尿病研究にとって必要・不可欠なものになっている。  

第15回日本糖尿病動物研究会を終えて

埼玉医科大学第四内科
片山 茂裕

 第15回糖尿病動物研究会は小生が会長を仰せつかり、第8回糖尿病動物国際ワークショップ(会長:自治医科大学名誉教授 金沢康徳)と共同開催で、平成13年7月24-26日の3日間にわたり日本大学会館(東京都市ヶ谷)で開催された。参加者は180人にのぼり、海外からも9カ国25人の参加を得た。2つの特別講演、4つのシンポジウム、3つのワークショップが企画され、一般演題は口演33題、ポスター22題が発表された。
 特別講演1では、Palle Serup先生(Hargedorn Research Laboratories, Denmark)が「膵臓の幹細胞とラ氏島の分化」について講演され、胎生8.5日頃にPdx1やPax6が発現していること、ラ氏島の前駆細胞としてNeurogenin3やp48がマーカーになりうることを示された。また、HES-1やNotch1遺伝子が膵β細胞への分化に必須なことも示された。特別講演2では、東京大学糖尿病内科の門脇 孝助教授が「ノックアウトマウスにおける糖尿病の発症の分子遺伝学的メカニズム」について話された。IRS-1のノックアウトマウスでは骨格筋のインスリン抵抗性はあるが糖尿病にならないこと、一方IRS-2のノックアウトマウスは肝臓のインスリン抵抗性が顕著で糖尿病になることを示され、今後遺伝子操作をした動物が糖尿病の研究に増々重要となることを窺わせた。
 Albert E Renold Memorial Lectureは「インスリン抵抗性に及ぼす過栄養の影響」と題してEleazar Shafrir教授(Hadassah University, Israel)が行い、砂漠のPsammomys obesus(サンドラット)を紹介された。通常食で飼育するだけで糖尿病を発症し、インスリンによるチロシンキナーゼ活性化やGLUT4の発現の低下や、PKCεの過剰発現などが関与していることが示された。
 シンポジウムは4つ企画された。合併症、肥満と糖尿病、治療法に関するシンポジウムに加えて、圧巻は「日本で確立された糖尿病動物モデル」に関するシンポジウムであった。東京医科大学動物実験センター米田嘉重郎助教授がオーバービューを行い、各モデルのポスターディスプレイが行われ、活発な討論が行われた。日本で確立されたモデルが一同に会したわけで、12のモデルを整理して列挙するが、肥満を伴う2型のモデルとしてはKKマウス・NSYマウス・TSODマウス・OLETFラット・WISTAR FATTYラットがあり、肥満を伴わない2型のモデルとしてはGKラット・WBN/KOBラット・SDT(spontaneously diabetic Torii)ラットがあり、1型のモデルとしてNODマウス・KDPラット、AKITAマウスがある。ALS & ALRマウスも特殊なモデルとして興味深い。今まで網膜症のいいモデルがなかったが、SDTラットでは高率に網膜の出血や剥離がおこり、血管の基底膜の肥厚がおこるという(自治医科大学大宮医療センター眼科梯助教授)。
 シンポジウムや一般演題で、遺伝子解析の結果も数多く発表された。NSYマウスでは、第11、14、6染色体にNIDD1、2、3遺伝子が証明され、consomic strategyでその役割がすこしずつ明らかにされている(大阪大学加齢医学、馬場谷)。SDTラットについては、鳥居薬品の増山氏らがNidd/Sdt1~Sdt4までを第1、2、11、18およびX染色体にマップした。NODマウスのIdd3は第3染色体にあるが、IL2の近傍にマップされ、最近IL21遺伝子もこの近くにあり、その関与が注目される(大阪大学加齢医学、池上)。
 紙面の関係で、他のトッピクについては割愛するが、これだけの糖尿病動物モデルを開発し、糖尿病動物に関する研究会を毎年行っているのは日本だけであり、いわば我が国がこの方面の研究では世界をリードしているといえる。世界に向け、いろいろな情報を発信できたのではないかと自負している。最後に、御参加いただいた会員諸氏の御協力に厚く御礼申し上げます。

糖尿病モデル動物の紹介(4)NOD マウス

塩野義製薬株式会社油日ラボラトリーズ
牧野 進

はじめに
 現在では、糖尿病のモデル動物は、1型も2型も豊富になったが、1975年以前には、自然発症の1型のモデル動物は存在せず、糖尿病の研究者から切望されていた。われわれは、1974年に、飼育管理の過程で見出した1匹の雌マウスの糖尿病態に興味を持ち、その子孫を用い病態の復元を図るとともに、系統育成をおこない、自然発症の1型のモデル動物、NOD(non-obese diabetic)マウスを作出した。

作出の経緯
 前述した糖尿病態を示す雌マウスは、催奇形実験用に日本クレア(株)より購入した非近交系のICRマウスの中で、1966年に見出された白内障マウスに由来する。この白内障形質は遺伝的に固定され、CTS(Cataract Shionogi)というミュータント系統として確立された。CTSマウスを系統育成する6世代目で、高血糖と正常血糖を選択目標とする2つのラインが分枝されたが、その目標は達成されなかった。これらのラインの譲渡を受け、系統維持する過程で、われわれは正常血糖を目標とした後者のラインにおいて、多飲、多尿、尿糖陽性を示す1匹の雌マウスを見出した。このマウスの仔と近縁系統の仔を用い8組の交配を作出し、多飲、多尿を示し、尿糖陽性を確認した個体を顕性糖尿病発症(以下を発症)個体とみなし、糖尿病の復元を試みた。発症した雌親から離乳仔を得ることは困難であると予測されたので、雌親が発症する前に出来るだけ多くの仔を確保しておき、両親または片親に発症を認めた仔を次世代の候補として残すという選択方法を用いた。選択育成過程で継代不能となるラインもあったが、糖尿病発症系として3つの近交系の作出に成功した。この内の1系統の病態特性を調べ、1型糖尿病のモデル動物として位置づけ、1980年にNODマウスとして公表した1)

糖尿病の病態
 NODマウスの糖尿病は、外観的に認むべき前駆症状のない状態で突然発症する。その発症には、性差がみられる。雌の発症は約90日齢から認められ、210日齢までの累積発症率は約80%である。一方、雄の発症は150日齢頃にはじまり、210日齢までの累積発症率は約20%である。発症動物では、多飲(26ml/day)、多尿(20ml/day)、高血糖(783mg/dl)、低インスリン血症(<1mU/l)、尿糖高値(12g/dl)が特徴的で、これらの症状とともに体重が急激に減少しはじめる。ケトン尿は発症した雌の約70%に認められる2)。発症前の耐糖能は正常であるが、発症後は明らかな耐糖能異常を示す。一旦発症した動物が自然寛解する例は少なく、インスリン投与を行わないと発症後1-2か月で動物は衰弱し、死亡する。
 NODマウスの膵臓の病理所見では、膵島内へのリンパ球浸潤(膵島炎、insulitis)が特徴的である。この像は、3週齢までの動物では認められないが、5週齢以上の動物では70-90%観察され、その出現に性差はない。高度のリンパ球浸潤像は発症前の動物に多くみられる。一方、発症動物では、膵島の退縮が著明で、膵島内へのリンパ球浸潤は消退する。膵臓以外の臓器では、顎下腺、涙腺のリンパ球浸潤が特徴的で、顎下腺炎は9週齢以上の雌に、涙腺炎は9週齢以上の雄に多発する。

遺伝
 NODマウスと対照マウスとの交配実験により、これまでに18個の疾患感受性遺伝子(Idd)がマップされている。この内第17染色体上に存在するIdd1、Idd16、第3染色体上に存在するIdd3、Idd10、Idd17、第1染色体上に存在するIdd5は、NODマウスの膵島炎および発症に重要な役割をもつ遺伝子として注目されている。最も影響力の強いと考えられるIdd1の候補遺伝子として、クラスIIMHCが想定されている3)4)

入手および飼育管理
 NODマウスは日本クレア(電話:03-5704-7123、06-4861-7101)で販売されている。
 NODマウスの発症には、遺伝要因と環境要因が関与すると考えられている。NODマウスの発症は、MHVやLCMV等の微生物や飼料により影響を受け易い5)。とくに動物実験施設の微生物環境には配慮する必要がある。

参考文献

  1. Makino S, et al(1980)Breeding of a non-obese, diabetic strain of mice. Exp. Anim. 29:1-13
  2. Harada M, et al(1992)Biology of the NOD mouse. Annual Report of Shionogi Research Laboratory 42:70-99
  3. Baxter AG, et al(1995)The genetics of the NOD mouse. Diabetes/Metabolism Reviews 11:315-335
  4. Ikegami H, et al(1996)Molecular genetics of insulin-dependent diabetes mellitus: Analysis of congenic strains. In: Frontiers in Diabetes Research:Lessons from Animal Diabetes VI. Shafrir E(ed)Birkhauser, Boston, p33-46
  5. Ikegami H, et al(2000)The NOD mouse and its related strains. In: Primer on animal models in diabetes. Sima AAF, Shafrir E(eds)Harwood Academic Publishers, p43-61