Vol.3 No.2 December 1999

号頭言 産学協議会の意義とさらなる発展について

武田薬品工業株式会社
創薬研究本部 次世代医薬品研究室
池田 衡

 1997年、本会の名称が「日本糖尿病動物研究会」に改名されるとともに、他の学会・研究会にはないユニークな協議会が内部機関として発足した。それは会則第17条にある「本会に産学協議会をおく」というもので、その目的として「産学協議会は本研究会と産業界を取り巻く問題について意見を交換し、本会の目的を達成するための研究奨励と事業等について提言する」と明記されている。これまで学術集会後、東京慈恵会医科大学池田義雄教授のご司会のもとに3回の産学協議会が開催され、その内容はNews Letterに記載されている。
 現時点では、賛助会員各社の固有の「情報・技術の紹介」が主なる話題となっている。このことは、News Letterの「糖尿病研究の紹介」や「糖尿病モデル動物の紹介」にも関連し、逐次さらに詳しく紹介されることであろう。本協議会には、動物、製薬、食品、医療機器等の関連企業の方々が参画しておられ、幅広い話題が提供されている。しかし、さらに突っ込んで産学協議会の意義を考えると、「情報・技術の紹介」から「情報・技術の共有化」に進んで行けないだろうかと考える。ひとつの例として、糖尿病モデル動物の共有化が出来ないかということを考えてみた。
 無論、それには大きな関門が立ちふさがっている。私的あるいは企業秘密に属する事柄や各企業の内規にもとる事柄と関連するからである。我が国オリジナルな糖尿病モデル動物であるKK/KKAyマウス、NODマウス、Goto-Kakizakiラット、Wistar fattyラット、OLETFラット等は、それぞれユニークな着眼と熱い情熱のもとに生れた“固有の物語”を持っており、私的あるいは企業の財産であることは確かである。勿論、これらの動物の中ですでに市販され、誰でも利用出来るものもある。しかし、当社で確立したWistar fattyラットの場合は国内外の公的機関には分与できても、同業他社には分与できないことになっている。多分、他社の場合でもそのような例はあるだろうと考える。かって、Zucker diabetic fattyラットを購入したいと動物業者に申し出たが、国内企業との独占契約があり、出来なかった経験もある。これらの動物は大学と企業の長年の連携のもとにそれぞれのモデル動物が持つ特異な病態の解明が進められ、ヒト糖尿病との類似点/相違点がすでに明らかにされている点、糖尿病の更なる研究あるいは新薬の薬効評価/既存薬との差別化等に貴重な動物である。また、遺伝子解析による分子レベルでの疾患の理解にも利用されていることも見逃してはならないだろう。
 近年、Tg動物の作成が容易になり、種々のユニークな特性を持つ糖尿病Tg動物も生れてきている。これらのTg動物の場合も、系統の確立、維持、繁殖、供給となると大変なものである。昨年、当社は約320m2のTg動物専用飼育室を新設したが、アッという間に満杯となりTg動物がらみの共同研究や系統維持の要望には応じられない現状である。モデル動物の確立には多年月と多大な労力・忍耐がかかり、近年のように時の流れが速くなるとなかなかじっくりと取り組める課題ではなくなってきている。さらに、系統の繁殖・維持にはマンパワーと設備が必要であり、役割が終了したモデル動物の場合、消滅してしまう危険もある。有益な自然発症モデル動物やTg動物が消失したり、設備等の関連から新しい試みに支障が生じるのは、本領域全体の損失につながる恐れがある。
 具体的な施策として、会員相互が自由に活用できる「糖尿病モデル動物センター」を設立し、系統の維持と繁殖・供給が出来ればと考えるが、設備、人員、運営等直ぐに出来るものはない。そこで、施設等がなくてもそれに類した機能が果たせるネットワーク網が設置出来ないであろうか。取りあえず、モデル動物の種類と所有施設、繁殖・維持の現状、分与の可否と条件、系統維持法(受精卵冷凍保存、卵子/精子冷凍保存等)、繁殖・供給業務受託の条件等を調査し、ネットワーク網の構築を進めてはどうであろう。
本研究会におけるユニークな産学協議会を形骸化させないために、会員諸氏の忌憚のないご意見と一層のご協力をお願いしたい。

第14回日本糖尿病動物研究会年次学術集会の開催にあたって

東京医科大学動物実験センター
米田嘉重郎

 第14回日本糖尿病動物研究会年次学術集会を、平成12年1月28日(金)と29日(土)の2日間にわたり、東京医科大学臨床講堂にて開催いたします。
 糖尿病患者は、国内のみならず国際的にも年々増加の一途をたどっています。ヒト糖尿病の予防と制圧が、21世紀における人類の大きな課題といっても過言ではありません。その基盤となるヒト糖尿病の遺伝ならびに発症機構の理解には、糖尿病動物からえられる研究成果がこれまで以上に重要となってきています。そこで、本年次学術集会では 、「ヒト糖尿病の予防と制圧への挑戦」をテーマに掲げ、糖尿病モデル動物における原因遺伝子の遺伝解析ならびに病態解析を機軸に、糖尿病動物の果たす真の役割を探ることができればと願っております。
 一般演題として、糖尿病動物を用いた糖尿病の成因および遺伝、合併症を含む病態、治療など多岐にわたる最新の研究成果が発表される予定です。さらに、Guberski先生(President of BiomedicalResearch Models, Inc.)に特別講演を、樋野興夫先生((財)癌研究会癌研究所 実験病理部部長)に教育講演をお願いいたしました。
 Guberski先生は、University of Massachusetts Medical CenterのVirus Antibody FreeResearch Areaの部門長をされておられましたが、昨年、米国NIHの指導で研究所を設立されました。先生は長年にわたり、BB/Worラットの育成・維持、遺伝解析、特性解析に携わっておられました。最近では、新しい2型糖尿病モデルラットであるBBZDR系統を育成され、現在その特性解析をされています。今回は、この系統の特性についてご講演いただく予定です。
 我が国では、自然発症糖尿病モデル動物が数多く開発されておりますし、最近では遺伝子操作による新しい糖尿病モデル動物の開発も盛んであります。今後は、新しい糖尿病モデル動物の開発と同時に、病態解析ならびに原因遺伝子の解析を積極的に押し進めなければならないと痛感しております。そのためには、糖尿病モデル動物以外のヒト疾患モデル動物における最新の科学的情報から学ぶべき点が多いと考えております。このような観点から、ラットモデルを用いてヒト多段階がん化機構解明に向け、精力的に研究を展開しておられる樋野興夫先生に、「遺伝的背景と環境因子-癌の起源に学ぶ」をテーマにご講演いただく予定です。糖尿病モデル動物における遺伝と環境の理解を深め、ポストゲノム時代における糖尿病動物の役割を考える契機にしていただければと考えております。
 一人でも多くの糖尿病動物研究者、糖尿病動物に関心をお持ちの方が本学術集会に参加され、活発な議論が行われることを願っております。

株式会社三和化学研究所の研究内容紹介

株式会社三和化学研究所・総合研究所
城森 孝仁

 株式会社三和化学研究所には、2つの研究所があります。1つは、三重県北部に位置します総合研究所で、ここは創薬及び開発研究機能が集約した新薬の研究開発拠点です。もう一つは、岐阜市の北にあります製剤研究所で、そこでは製剤技術の研究及び製剤医薬品の開発を進めています。2つの研究所が地域性を生かし、お互いに連携して研究活動を展開しています。
 現在三和化学研究所は、新薬の開発を、今や国民病と言われる糖尿病とそれに関連した疾患に焦点を絞っております。総合研究所では、この分野での治療薬を世に送り出し、貢献すべく、基礎研究を含めた創薬研究に重点を置いています。以下にその概略を紹介します。
 まず基礎研究の分野では、研究テーマとして、「糖尿病性神経障害におけるアルドースレダクターゼ(AR)の役割解明」の研究が挙げられます。弘前大学医学部第一病理学教室との共同研究では糖尿病ラットでARと神経障害の関係を明らかにし、京都府立医科大学薬理学教室との共同研究では、ARの存在が多いシュワン細胞に着目しポリオール代謝が亢進していることを解明してきました。現在は、ポリオール代謝と神経障害の関係について、細胞レベルで明らかにする方向で研究を進めています。これらの基礎研究を生かす為に、次世代の糖尿病合併症治療薬の開発も手がけております。同時に、既に国内の臨床治験が終了しておりますアルドースレダクターゼ阻害剤(SNK-860)の開発で培ったノウハウも活用しています。
 次に挙げられる研究テーマとしましては、インシュリンレセプターを活性化する低分子の新規な経口糖尿病薬の開発です。このテーマは、米国のバイオベンチャー企業でありますテリック社と共同開発しているものです。本薬剤は、アゴニスト作用を示し、細胞レベルではレセプターのリン酸化とグルコース取込が見られ、動物モデルでも血糖低下が確認されています(1999年の米国糖尿病学会で発表)。現在化合物選択の最終段階に来ています。
 さらにもう1つの柱として、インシュリン分泌に関与する薬剤の開発を研究テーマとして取り組んでいます。インシュリン分泌のメカニズムを解析しつつ、新規な作用メカニズムに基づく薬の開発に注力しています。さらに、京都大学病態代謝栄養学教室との共同研究でありますGIPレセプターノックアウトマウスの作製に関わった経緯から、このマウスを応用した新しい糖尿病モデルマウスの開発にも挑戦しています。