Vol.2 No.1 1998

号頭言 Diabesityの予防と治療 ― モデル動物を用いた研究から ―

東京慈恵会医科大学健康医学センター 健康医学科
池田 義雄

 現在、我が国における糖尿病人口は600万人を越えている。そして、耐糖能障害(IGT)を含む一定の特徴を有する糖尿病予備軍は800万人以上を数え、40歳以上中高年者の6-7人に1人が2型糖尿病、或いはその予備軍と目される状況になっている。
 2型糖尿病と肥満との密接な関係を考慮するとき、E. Shafrirの提言したDiabesityという用語は大変興味深い。ここに文字通りDiabesityを示す自然発症糖尿病モデル動物として、Otsuka Long Evans Tokushima Fatty(OLETF)ラットが、大塚製薬の研究所で開発提供されたことは、肥満を伴った2型糖尿病の臨床的な数々の問題点を基礎的に明らかにしていく上で多大な貢献をなしている。  さて、私たちは長年取り組んできたWBN/Kobラットの研究実績を踏まえて、このOLETFラットによる研究でDiabesityにおける特徴的な体脂肪分布や、食物繊維の有用性、更にはα-グルコシダーゼ阻害剤長期投与による動脈硬化予防の可能性、そしてDiabesityによるSU剤とビグアナイド剤の有用度などを検討することができた。ここにその要点を記し号頭言としたい。

OLETFラットにおける体脂肪分布特性
 2型糖尿病の予備軍と目されるIGTの中で、糖尿病の進展、動脈硬化の促進がみられ易い例の特徴的な所見の一つは、たとえ肥満が軽度であったとしてもその体脂肪分布が腹部の臍の高さでみた体脂肪分布が皮下脂肪組織に比較して、より腹腔内脂肪組織(内臓脂肪)に偏していることが認められている。OLETFラットは、この特徴的な体脂肪分布を呈し、病初期にはブドウ糖負荷に対するインスリンの過剰分泌がみられ、病期の進行に伴いやがてブドウ糖負荷に対するインスリン分泌の低下が顕性糖尿病を誘導する。このような経過の中で軽症糖尿病期と目される時の病態は、内臓脂肪型肥満とともにIGT、高インスリン血症、高脂血症が呈される。このような経過の中で当初は正常に近い状態を保っていたB細胞が、やがて変性を来すようになる。そして、これに伴い糖尿病性合併症も出現してくるが、動脈硬化として捉えられ得る冠状動脈などにみられる変化も明らかとなる。
 OLETFラットにみられる肥満の特性と相対する所見を呈するのが、Zucker Fattyラットである。これの体脂肪分布は皮下脂肪に偏し、極めて顕著な高インスリン血症をもって決して本格的な糖尿病には至らない。これは、人にたとえれば糖尿病としての素因がなく、どんなに太っても体脂肪分布は皮下脂肪に偏在し、糖尿病にいたらないのは無論のこと動脈硬化をも起こしにくい例に相当するように思われる。

OLETFラットで明らかにされた治療効果
 OLETFラットの以上のような特徴を踏まえて、予防ならびに治療の面から幾つかの検討をしてみた。その第一は食物繊維投与による発症予防効果であった。市販飼料であるMM-3を高繊維食とし、MB-3を低繊維食として生後4週齢雄性OLETFラットを用い、35週にわたり体重ならびに糖尿病発症状態を観察した。その結果、高繊維食は低繊維食に比較して体重増加を有意に減少させるとともに、35週に至っても糖尿病状態の有意な軽症化が示された。このことは、豊富な食物繊維摂取が糖尿病の発症予防につながることを示唆している。
 一方、OLETFラットの高インスリン血症が食後過血糖により顕著に誘導されることに注目し、α-グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース)を長期投与したところ、対照群に比較して冠状動脈に現れる血管内皮障害が見事に抑制され、全く病的な変化をもたらさないことも明らかにした。2型糖尿病におけるα-グルコシダーゼ阻害剤の適用を考える際、この事実は本剤が2型糖尿病の軽症期に肥満とともに現れるインスリン抵抗性の解除に極めて有意度の高い薬物であることを示すものとして受け止められた。  第3は、Diabesityとして捉えられる2型糖尿病の場合、SU剤の使用が結果的に肥満を増強し、一時的にはよい結果をもたらしたとしても血糖コントロールは再び増悪するという悪循環をもたらす点についてである。このこともOLETFラットで実験的に証明された。このような事例においては、古くから用いられているインスリン非分泌系薬であるビグアナイド剤(メトホルミン)がよい適応になる。この点もOLETFラットの実験は明らかにした。

終わりに
 以上のようなDiabesityとして恰好なモデル動物であるOLETFラットで得られた知見は今日の、そして明日からの肥満を伴った2型糖尿病の予防・治療・管理に説得力のある戦略を教えてくれている。今後とも、日本糖尿病動物研究会活動がヒトの糖尿病の予防から管理までの全ての面において、モデル動物の成績を確かな踏み台として、一人一人特性を有する患者医療の向上に役立てられることを願うものである。

第12回糖尿病動物研究会を終えて

徳島大学医学部臨床検査医学
島 健二

 第12回糖尿病動物研究会は、平成10年2月6日、7日の2日間、大阪千里ライフサイエンスセンタービル、サイエンスホールで開催された。この時期天候不順なことが多く、海を渡って徳島に参集していただくことが困難な場合のあることを予想し大阪で開催したが、両日ともに好天に恵まれ、杞憂に終わった。アクセスも良く、120~130人がゆったり座れ、落ち着いた雰囲気のサイエンスホールは徳島のいずれの会場より本研究会により適した会場で、参加者にとってはむしろこちらの方がよかったのではないかと思う。
 特別講演としてJackson LaboratoryのE. H. Leiter博士に“Developing New Mouse Models of Diabetes;An International Effort”という題で話していただいた。Alloxan sensitive(ALS)マウス、Alloxan resistant(ACS)マウスが岡山大学で開発され、その結果を基にそれらの遺伝的特性の解析、さらに日本で確立されたNODを用いての研究を例に、この分野における研究の国際的協力の重要性を強調されたが、作出者の先発権(こんなものが実験動物に適応されるか否か不明であるが)国民性にもかかわる難しい問題でもあるという感想をもった。
 糖尿病動物がどのような基準で診断されているのか。研究者が疫学、病態について論じ合う場合、少なくとも対象にしている個体または集団が同一の基準で診断されている必要がある。前回の幹事会、評議員会の依頼を受け、診断法及び基準についてアンケート調査し、その結果をまとめて報告した。動物種に応じ、それぞれアンケート結果を集計したが、診断法、基準はまちまちであった。全体をまとめて、診断法は9種類に及び、診断基準も食後血糖値≧200mg/dl、OGTT頂値≧300mg/dl且つ2時間値≧200mg/dl、IPGTT2時間値≧200mg/dlなどとばらついた。このように、診断法及びその基準が不統一で、従って、色々な点で不均一なものを糖尿病という名でひとまとめにして論じているのは問題ではないかという印象をもった。動物の場合、種差、絶食時間の影響、夜行性など、ヒトにはない色々な問題があり、統一的診断基準を設定することは困難である。また、糖尿病の特性として何を指標(ヒトの場合、細小血管症)に基準値を設定するのか難しい問題である。ひとつの提案として、慢性高血糖状態を糖尿病の特性とし、絶食時間にも影響されないglycated hemoglobinを用い基準値を決めれば如何なものであろうか。この場合、動物種によって赤血球寿命が異なるため、基準値は動物種ごとに設定する必要があるであろう。これをひとつの問題提起として、研究会が音頭をとってまとめていただきたいものである。

糖尿病モデル動物の紹介(1)ヒトMODYのマウスモデルAkita mouse

秋田大学医学部衛生学
小泉 昭夫

 ヒトにおける糖尿病の遺伝的要因の解析には、マウス、ラットでは染色体レベルでsyntenyがヒトとの間で成立しているため有用である。以下、我々が開発した糖尿病モデル動物について紹介したい。
 1)糖尿病の特徴:我々の開発したモデルマウスは、ヘテロは生後10週までには糖尿病を発症する。性差が存在し、雄は雌よりも糖尿病の程度が重く1年生存率も50%程度と悪いが、雌はほぼ100%と正常同胞と変わらない。本マウスは、糖尿病にいたるどの時点においても肥満は証明されない。また、Insulin投与による末梢のInsulin抵抗性の検討では、Insulin抵抗性は無いと結論された。また、血中のインスリンは正常同胞に比較し著しい低値をしめす。
 2)遺伝様式および遺伝子座:遺伝様式は常染色体優性遺伝様式で子孫に伝わって行く。連鎖解析の結果、D7Mit258への強い連鎖が証明され、責任遺伝子は、7番染色体72±3cMに存在する事が明らかになった。
 3)膵ラ氏島の病理:糖尿病初期の膵β細胞で既に、明らかなβ細胞密度の低下が証明される。さらに、β細胞は、抗Insulin抗体に不均一にそまる。経時的観察では、糖尿病発症前から完成期のどの時点においても膵ラ氏島へのリンパ球の浸潤など、Insulitisを示す所見は認められない。やはり雌雄差が明瞭に認められ、雄では、よりInsulinに染まる領域の減少が著明である。さらに、糖尿病発症前後を含め、死亡に至るまでβ細胞の増殖によるHyperplasiaは認められない。電顕で観察すると、β細胞には特異な変性像として、細胞質に網目状の構造が認められ、核は濃染し、細胞質とのあいだに明確な間隙が存在している。細胞質にあるミトコンドリアは糖尿病初期より膨化し週齢を経るにつれて破裂像が認められる。また、明らかに細胞1つ当たりのInsulin分泌顆粒も少ない。これらの変化にたいしα細胞の微細構造は、糖尿病完成以後においても正常に保たれる。
 4)合併症:糖尿病を発症する10週前後から、尿崩症に似た著明な多飲多尿を生じる。Vasopressinへの応答はよく、Insulin投与により多飲多尿が改善されることから、高血糖による浸透圧利尿と考えられる。本マウスでは、40週までにほぼ糖尿病の全例が水腎症を発症する。また同時にヒトの糖尿病に類似した糸球体病変を30週齢以降発症する。
 5)生化学的検討:糖尿病マウス、対照同胞において、膵臓当たりのInsulin, Proinsulinの含有量を検討したところ、両者の絶対値の減少が糖尿病マウスに認められたが、Insulin:proinsulin比は、どちらも2-3%で大きな違いは存在しない。また、分離したラ氏島から分泌されるInsulin, proinsulinも絶対量は少ないが、Proinsulinemiaは証明されない。
 6)ホモマウスでの知見:ホモ個体では、生後直後から血糖値はいくぶん高めであり、生後2週までには明らかな高血糖を示す。ホモマウスでは成長不全をきたし生後3ヵ月までに死亡する。病理所見では、生後直後にすでにβ細胞密度の減少があり、それを補うかのようにα細胞の増殖が認められた。さらに、生後の離乳期は、正常同胞、へテロ同胞では、β細胞密度の増加が起こるのに対し、ホモ個体ではα細胞は増加するのに対しβ細胞の密度は増加しない。したがって、周産期初期における膵臓あたりのInsulin/glucagon含有量は、生後直後より、ホモ個体では減少する。
 7)糖尿病研究にとっての有用性:Mody遺伝子座のヒトにおけるSyntenyは11番染色体15あるいは13であり、この領域に相同の糖尿病の遺伝子座が存在するものと考えられる。しかし、ヒトMODYに関連する遺伝子は現在までにこの領域には存在しない。そこで我々はこの未知の遺伝子が、遺伝形式の類似性、若年発症であること、肥満をともなわないこと、Insulin抵抗性が認められないことなど臨床的にヒトMODYと類似していることからModyと命名された。

参考文献

  1. Yoshioka M, Ikeda T, Kayo T, and Koizumi A, Diabetes 46:887, 1997
  2. Kayo T and Koizumi A, J Clin Invest 1998年5月号掲載予定
  3. Koizumi A, Hirasawa F, Tsukada M, Kayo T et al, Diabetologia in press
  4. 吉岡政人、堀内和之、長谷山俊之、小泉昭夫, 日衛誌 53巻:129, 1998
  5. 堀内和之、吉岡政人、長谷山俊之、小泉昭夫, 日衛誌 53巻:130, 1998
  6. 長谷山俊之、嘉陽毅、塚田三香子、小泉昭夫, 日衛誌 53巻:131, 1998